J.S.バッハの「インベンション」が弾けない人は必ず読んでください

ピアノを専門的に習う人にとって、
J.S.バッハの『インベンションとシンフォニア』は、
必ず避けられない作品になります。

しかし、
この作品を学ぶと、
「難しくて弾けない!」
「バッハが嫌いになる!」
などと、
挫折する人もいらっしゃるのではないのでしょうか。

今回は、
「インベンション」が少しでも弾きやすくなる様にアドヴァイスをしたいともいます。

少しでも、
「インベンション」が好きになっていただけたら幸いです。

北村

あくまで、
北村の観点からの話です。

北村

専属の先生がいらっしゃいましたら、
先生の指示に従った方がいいでしょう。

ただ、
バッハの学習は限界がないので、
新しい情報がありましたら、随時更新していきます。

目次

「インベンション」が嫌いになる理由。

では、
「インベンション」が嫌いになる理由を2つ説明してみましょう。

①右手と左手のバランスが大切になる。

まず、
「右手と左手のバランスを整えなければならないからです」

ピアノを弾く人は、
利き手の右手で旋律を弾き・左手で和音を弾くケースが多いと思います。

でも、
バロック音楽の作品は複旋律音楽が主流になります。

その為、
左手で弾く場合も旋律を奏でなければなりません。

なので、
今まで左手が和音主流で弾いていた人にとっては困難だと思います。

②もともとはピアノの作品では無い。

確かに、
「インベンション」と「シンフォニア」は鍵盤楽器の作品です。

でも、
その時はピアノの楽器はまだ製作中だった為、ピアノの為の作品では無いのです。

当時の鍵盤楽器は、
オルガン・チェンバロ・クラヴィコードになります。

その前に、
3つの鍵盤楽器の構造について理解しましょう。

オルガン⇒パイプを使って、空気の力で音を出す。
チエンバロ⇒爪で弦を弾いて音を出す(当時は鳥の羽を使用していたようです)。
クラヴィコード⇒弦をタンジェント(金属)で突き上げる事で音を出す。

それぞれ、
音の出し方が違う事が判ります。

バッハのクラヴィーア作品は、
チェンバロ・オルガンが主になります。

その中のクラヴィコードは、
現在のピアノの原点と言える楽器になります。

北村

「インベンション」は、
クラヴィコードの為の作品である説があります。

北村

「弦を叩く構造」は同じなので、
ピアノを弾くのも馴染みやすいと思います。

北村

でも、
鍵盤のタッチや大きさが当時よりも違うので、
苦戦してしまうのではないのでしょうか…。

何故、「インベンション」は必要なのか?

この曲は、
長男のヴィルヘルム・フリーデマンの教育用の目的として作曲されています。

元々は、
「インベンション」は「15曲の前奏曲」
「シンフォニア」は「14曲のファンタジア」

として作曲されていました。

その後、
1723年になるとバッハは、これらの曲に改めて手を加え、
「インヴェンション」と「シンフォニア」が完成したのです。

これは、バッハからの直筆メッセージです。

学習希望者が、

①二声部を綺麗に演奏するだけでなく、さらに上達したならば、

②オブリガードの三声部を正しく上手に処理すること、

またそれと同時に、優れた着想(invention)を得て、

それを巧みに展開すること、

とりわけ歌うような奏法を身に付け、

それと共に作曲の予備知識を得る為の、

はっきりとした方法を示す率直な手引き

という序文がつけられています。

バッハは、
ピアノのテクニック向上を助けてくれる教材になります。

「平均律クラヴィーア曲集」は、
元々チェンバロ・オルガン向きの作品になるので、
場合によっては、馴染みにくいと思います。

でも、
「インベンション」「シンフォニア」は
ピアノでも弾きやすい練習曲になっています。

「それならば、『ツェルニー練習曲』をマスターすればいいじゃない!」
と思われがちですが、
ツェルニーの練習曲はベートーヴェンの作品に沿った練習曲です。

また、
左手の練習曲が豊富で無い為、オススメ出来ません。

ツェルニーだけではなく、
他の作曲家のエチュード(練習曲)とは全く別として判断して下さい。

「インベンション」の学習のやり方。

お待たせしました。

それでは、
バッハの「インベンション」の学習方法を紹介したいと思います。

①最初は作品を理解すること。

まず、
下記を理解して下さい。

「インベンション」⇒2声
「シンフォニア」⇒3声

ガーベラさん

2声?
3声?
何の意味でしょう…?

この言葉が馴染めない場合は、下記をイメージしてみましょう。

「インベンション」⇒AさんとBさんが二人で会話している。
「シンフォニア」⇒AさんとBさんとCさんが三人で会話している。

人が会話をしていると思えたら、
少し理解ができやすいと思います。

②実際に作品を会話してみましょう。

バッハの作品は、
「主題(テーマ)」を見つける事が超重要です。

主題は、
何回も繰り返して登場するので分かりやすいと思います。

ただし、
「インベンションとシンフォニア」は、
「平均律クラヴィーア曲集」とは異っており、様々な様式が含まれています。

試しに、
『インベンション第2番ハ短調』で会話して見ましょう。

(あくまで、北村のイメージなのでご参考までに…)

インベンション2譜例

『インベンション第2番ハ短調(BWV773)』

[1小節目~]

Aさん⇒「今日はずっと家にいました。」
Bさん⇒「今日はずっと家にいました。」

Aさん⇒「だって雨が降っていたから外に出れなかった。」
Bさん⇒「だって雨が降っていたから外に出れなかった。」

Aさん⇒「洗濯も出来ないし・掃除もする気になれないし。」
Bさん⇒「洗濯も出来ないし・掃除もする気になれないし。」

[11小節目~] 

Aさん⇒「今日は一日中家にい…(途中でBさんが話しかける)
Bさん⇒「天気が良くなってきた」

Aさん⇒「天気が良くなってきた」
Bさん⇒「太陽が出てきたから買い物に行ってこようかな。」

Aさん⇒「太陽が出てきたから買い物に行ってこようかな。」
Bさん⇒「じゃあ、出かける準備でもしようかな?」

Aさん⇒「じゃあ、出かける準備でもしようかな?」
(AさんとBさんは別々の外出の準備をします)

[23小節辺りから]

Bさん⇒「さあ、準備完了!出かけ…(途中でAさんが話しかける)
Aさん⇒「やっぱり、今日は家に居ることにします。だって雨が降ってきたから。」

Bさん⇒「やっぱり、今日は家に居ることにします。」

Bさんは、
Aさんの会話を真似しています。

途中、
Aさんが発言を遮って、
Bさんが「天気が良くなってきた」と話します。

それから、
逆にAさんはBさんの会話を真似します。

『インベンション2番』は、テーマが長く、カノンになっている作品です。

右手で弾く旋律を、
左手で追いかけていきます。

11小節目から、
左手で弾く旋律を右手で追いかけていきます。

途中でAさんとBさんが独立します。
でも、
23小節目からAさんが最初の会話を再開して、Bさんが真似をします。

「インベンション」を実際に弾く前に、
2人が会話をしているとイメージをするのもオススメです。

それぞれの旋律を追いかけてみましょう。

③「インベンション」オススメの弾く順番。

これは、
人によって解釈が様々です。

ただ、
「インベンション」は番号順に最初から順番に習うと、挫折する可能性があります。

「インベンション」を初めて弾く場合は「4番ニ短調」をオススメします。

北村

4番(二短調)は、
弾きやすく・重要な要素が何点か登場するので、
最初に弾くといいでしょう。

北村

ただし、
途中の左手の装飾音(tr)が弾けないストレスもあるかもしれません。

北村

すぐに弾けない場合は、
オルガンペダルの様に、1オクターブで弾いて、
音を伸ばすのも対策の一つ
だと思います。
慣れてきたら「tr」に挑戦しましょう。

北村

4番が終われば、
1番(ハ長調)⇒3番(ニ長調)⇒13番(イ短調)⇒6番(ホ長調)⇒7番(ホ短調)
と進めていきましょう。

北村

2番(ハ短調)8番(ヘ長調)は、
テーマが長く、カノンが主体なので、
その前に14番(変ロ長調)をマスターしましょう。

北村

9番(ヘ短調)11番(ト短調)は最後に回した方がいいでしょう。

YouTubeに、
インベンション第4番の簡単な解説を紹介しています。
興味がありましたらご参考下さい。

“Invention No.4 d-minor (BWV775)”

④オススメの楽譜は…?

楽譜は
「原典版(Urtext)」を選ぶ事をオススメします。

北村

楽譜には、
原典版と校訂版(批判版)があります。

北村

原典版は、
作曲者の自筆譜を元に研究した楽譜。

校訂版は、
原典版を元に校訂者が書き加えられた楽譜です。

北村

バッハの場合、
原典版には強弱記号・速度記号の記載がほとんどないので判断しやすいかと思います。

特にピアノを専門的に勉強されている人は、
「ヘンレ(Henle)版」を使用されている人が多いと思います。

インベンション ヘンレ版
※古いヘンレ版になります…。

市田儀一郎氏が校訂している全音の楽譜は、「全バッハ全集」を元にして校訂されているのでいいと思います。

白い楽譜で有名な井口氏が校訂している「春秋社版」は、注意が必要です。

春秋社版は、
原版には存在しない強弱記号・速度の指示がされています。

それは、
ピアノの表現をイメージする為に井口氏が付け加えた物です。

また、
彼の意図により、原典版と違う音で配置している部分もあります。
(その時は、番号がふってありますので注意書きをキチンと見ましょう!)

お助け教材としてはいいのですが、
バッハのオリジナリティが判断出来ない可能性もあるので、
出来れば原典版と併用しましょう。

校訂版の中でも、
「インベンション」を数曲に分けて数冊にしている楽譜も存在しています。

選ぶのは個人の自由ですので何も申し上げませんが、
中には、お金儲けが目的で校訂をしている人もいらっしゃいます。
注意が必要です。

Henle, G. Verlag
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著:市田儀一郎
¥1,980 (2021/08/26 12:13時点 | Amazon調べ)

⑤「インベンション」の奏法のポイント

初心者の人が「インベンション」をピアノで弾く場合、
まずは守って欲しい事があります。

STEP
サスティンペダルは使わない

バロック時代の楽器は、
サスティンペダルが無い時代でした。

なので、
「インベンション」は鍵盤だけで弾いてみましょう。

パダルは慣れてから使用する方がいいでしょう。

STEP
スタッカートの使い過ぎに注意!

校訂者によっては、
スタッカートで演奏する様に指示されていると思います。
(楽譜の校訂版でも、そのような指示があります)

先程も申し上げましたが、
理由としては、ピアノの作品では無いからだと思われます。

バッハの作品には、
様々な解釈があります。

ピアノのタッチは重いので、そのような奏法も一つかと思います。

でも、
むやみにスタッカートを使いすぎるのは危険です。

STEP
速く弾き過ぎない!

原典版では速度表記がありません。

なので、
音の動きから考えて速さを判断する事になります。

でも、
だからと言って、何でもかんでも早く弾くのはNGです。

機械的に早く弾く人も少なくないと思います。

バッハのメッセージを思い出してみましょう。

この教材は、
「歌うような奏法を身につける」のが目的です。

「インベンション」は、
1つの旋律が歌えるようになるのかが目的です。

まずは、
ゆっくりと弾いてみましょう。

STEP
転調を楽しみましょう

インベンションは15曲の小曲です。

各作品では、
必ず属調・下属調・平行調などへ転調されます。

転調の部分が良く分からない人は、
曲の途中で雰囲気が
「明るくなったり・暗くなったり」する部分を探すといいでしょう。

北村

例えば、
インベンション第1番ハ長調の場合では、
ト長調・イ短調に転調されている部分を見つけてみましょう。

「インベンション」をマスター出来たら、次は「シンフォニア」です!

2声インベンションをマスター出来たら、
次は3声インベンションに挑戦です。

ただし、
難易度が急に上がってしまいます。
「シンフォニア」については、下記の関連記事を参照ください。

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